2007.06.04 mon | サマージャム
いい天気だったので昼は外で食べようと思って、21階から3階に下りた。
僕の会社の近くには船着場があり、一段上がったったところにウッドデッキがあって、そこにはいくつかのベンチがある。会社が入っているビルの3階からその広場に繋がっていて、右手側はフジテレビの球体や、羽田空港に向かって旋回しながら高度を下げていく旅客機、レインボーブリッジが旋回して橋になっていくさまや、いくつかのビルが見える。わりあいと距離があるせいで、球体は小ぶりで、飛行機はゆっくりと視界を横切っていくし、レインボーブリッジとその先にあるビルは、なんだか子供のころに遊んだプラレールのように見える。
左手には勝鬨橋と、大小さまざまなビルが織り成すグラデーションがある。会社案内のパンフレットにも使われたモチーフで、グラフィック・イコライザーを思わせる隆起。夜中に見ると、自分と同じように働いている人がこの先にどのくらいいるのかな、なんて点いてる灯りを数えたりもする。意外に点いているとも言えるし、眠らない街と言われる割にはけっこう眠ってるじゃないか、とも言える。
ウェンディーズでハンバーガーを買って、ベンチに座る。ここは休日だと伊豆七島から帰ってきた旅行者とか比較的若いカップルや、犬を連れて散歩してる人なんかが多いけど、平日の昼間は僕みたいに昼食を持って出てきているスーツ姿の人が多くて、何をするわけでもなくぼんやりとしていたり、ベンチに横たわって昼寝をしていたりする人が多い。それも、けっこうくたびれた感じに見える人が。あるいはこの場所でぼんやりしているとくたびれた格好に見えてしまうのかもしれないな、と思いながら僕は照り焼きチキンバーガーをかじる。ソースが変わったって言ってたけど甘ったるいのは変わりなく、口の中がべっとりする。
ジンジャーエールをストローで吸い込んで口のなかをすっきりとさせ、しばらくぼんやりと、くたびれて見えるかもしれないぐらいぼんやりと、景色を眺めていた。横で鳩が三羽、昼寝をしていた。ここの鳩は僕みたいにベンチでくたびれてる人からパンのかけらをもらったりして慣らされているので、人に対して警戒が薄い。餌を与えられて太った鳩はふだんよりやや平らになっていて、気の抜けたラグビーボールみたい。目の前に広がっている河と海の境目みたいな水のかたまりの上を、客があまり乗っていない観光船が横切っていく。小型の漁船や貨物船が波にゆれて上下しながら交差していき、大島から戻ってきたジェット船から出る気流でその景色の大半が陽炎に包まれてゆらゆらとゆれる。
僕がこの場所をいまいち好きになれないのは、ハレの日のために作られたものが日常に埋没してしまっているように感じるからだと思う。これが用がないときはうらぶれていたりすればまた好ましく感じたりもするんだろうけど、中途半端に近隣の人々の日常としても機能しているし、週末にやる気をもってここを訪れる人を見ても、僕からすると会社がある場所なので、なにやら拍子抜けしてしまう。海が見えるところに会社がある、なんて言えば聞こえがいいけど、とても嫌なわけでもないが別段ひとに胸を張って薦められる場所でもない、すこし灰味がかったところなのだ。
それでもやっぱり天気が良くて過ごしやすい気候だと、外に出たくはなる。ジェット船の気流でゆらゆらとゆれる「F」の表示。波が平らだと告げる電光掲示を眺めながら、海の匂いが夏っぽくなってるなと思った。何かをやりたくなるけど何もしたくなくなるような季節。外に出るといつも「何してるのかなあ」と言ってる気がする。それは発する時々によって、自分だったり誰かだったり、誰でもない多くの人々だったり、もう引っ越してしまった昔のマンションの管理人だったり、動物園にいる象や、水族館にいるペンギンのことだったりもする。
結局一時間ぐらいベンチに座っていた。別になんにも始まらないし、何かが特に音を立てて崩れたりもしない、穏やかでも剣呑でもない午後。とりとめがないようだけど、でもそういった振り子の折り返しから少し進んだような、どちらともつかないような時間をけっこうな頻度で取り入れていかないと、自分はいろいろおかしくなって行くんだなってことに最近気がついた。たとえば僕は今日まで、目の前に広がる景色を河だと認識してなかった。自分が河だと思ってイメージするものとここはあまりにも違うから、まったく何の疑いも無く、河だと思っていなかった。そういう落っことし方をしてしまうことが良くあるのが自分なんだと、少し気をつけるようにしている。
家に帰ってみたら、ねぎが暑さのせいか、水を飲みすぎて布団の上で吐いたあとがあり、カバーを洗おうと外の洗濯機に向かったら、駆除された毛虫が洗濯機の上で何十匹か干からびていた。昨日作ったオニオングラタンスープを入れたカップは流し台で少し臭くなっていて、冷凍庫のアイスは一度溶けて固まったようで変な食感だった。僕は今年の夏に対して「めんどくさい季節だなあ」という導入を迎えることになりそうです。
毛虫、そういえばうちの庭にある梅の木から出てきたらしい、と管理人が言っていた。特に手入れもしないのに勝手に育ってえらいなあと思ってたけど、放って置きすぎるのもまずいのだなと思った。雑草もすくすくと育って、僕の腰ぐらいまでの高さになって、花までつけてる。花が咲いてるとちょっとだけ摘むのが惜しいけど、この家に最初にきたときにはこれ以上ないぐらい雑草が密集して、しかもそれらが全て僕の背丈ぐらいあって戦慄したことがあるので、躊躇無く抜いていかなくてはならない。せっかく庭があるんだからいっそ何か育ててみようか、とも思うんだけど、自分が何を育てたらしっくりくるのかもうひとつわからない。力強くなく、でも朴訥で、たまにきれいだったりするようなものがいい。
