2007.05.09 wed | 好きな街
会社のそばのうどん屋で(洒落みたい)生醤油うどんを食べながら、好きな街について話した。ぶらぶらして楽しい街ってどこだろう、と聞いてみると、谷中・根津・千駄木あたりがよい、とのこと。
「谷中・根津・千駄木でね、ヤネセンって言って」
「それ本当にそう呼ぶの?」
「本当だって」
「ユネッサンから思いついてない?」
「ちがう、本当ですってば」
そして、自分は逆にどこが好きか、と問われて、はてと思った。僕は住んでいた街とそのまわりは結構知った気でいるけど、そうじゃなく印象に残ってる街というと、けっこう考え込んだ。ひとつ思いついたのは多摩川で、僕は高校時代に自由が丘の予備校に通っていて、そこから多摩川園(当時は「園」がついていたのだ)までよく歩いていたからなのだろう。そういえば夜中にしし座流星群を見るために終電で出かけて行ったこともあった。
おおかたの人がそうであるように、僕も水辺に行くと不思議と落ち着いた気持ちになるのだが、それは海よりも池よりも湖よりも、川をみているときが一番だ。それも狭いものではなく、大きな川。海はどこかしら出かけて見に行くものという感覚があるから、僕にとっては非日常で、池や湖は流れが見えづらいのでなんだか少し「しん」としているというか、冷たさのようなものを感じる。
他にどこかあるかなと考えてみたら、下高井戸・三軒茶屋あたりを思いつき、ということは名画座がある街に好感を持つみたい。手持ち無沙汰なときにそっと迎え入れてくれ、少しの教養と心の動きを与えてくれるその存在は、物知りな叔父が近くにいるようで安心できるのだろう。そして映画館の近くにはちょっとした商店街があって、たいていそこには二軒ぐらいは喫茶店があって、そういうところで誰に話すでもなく映画の内容と自分の相関を考えたり、飽きたら本を読んだりするのがいい。
「いいね下高井戸。聖蹟桜ヶ丘もいいよ、『耳をすませば』の舞台。あと多摩動物公園ね。仙川の何もない感じもいいし、上北沢から桜上水のあたりの道がまた」
「京王線好きなんだね」
「京王線こそ青春ですよ」
いろんな青春があるものだ。大きな川があって、小さな映画館のある街が京王線沿いにあったら、彼にならって僕もひとかけらの青春ぽいものを持って行きたい。そしてそれを川に思い切り、大きな音を立てて投げ込んで、近くのこどもや釣りをする中年やおけらやあめんぼを驚かしたあと、映画でもみて寝てしまうのがいい。コシがあるうどんを噛み、蛸の天ぷらを噛みしめながら、そんなカラカラと音を立てそうで特にどこにも行き着かないようなことをぼんやりと考えていた。
